軽くお辞儀をして、隣に座る取締役を見た。

視線が交われば、やはり鼓動が速くなるのが伝わってくる。


「斉藤さんは俺をどう思ってる?」

「尊敬しております。憧れの上司です。」

「そう。明日の夜は『男』として俺を見て。」

「…………はい。」

「初めての経験で俺も困ってる。」


自嘲的な笑みが向けられ、胸がチクリと痛んだ。


「いえ、私も内心では凄く悩んでいます。初めて上司と恋愛するのですから。」

「考えてくれてるの?」

「はい。」


驚きの声を上げる取締役にクスリと笑ってしまった。

そんなに驚く?


「俺なんて眼中にないのかと。」

「そんな事はありません。こんな素敵な取締役に告白されれば、私も嬉しいですから。」

「そっか。」


やっと笑みを浮かべてくれた取締役に、ホッと胸を撫で下ろした。


「それでは失礼します。」

「スケジュールの件は頼んだよ。」

「はい。」


部屋を出て、そのまま開発企画部に向かった。

剛か…………。

少し気が重い。

最近、剛の言動が謎だからだ。


「よし!仕事仕事!」


気持ちを切り替える。

仕事なんだし、剛の謎な行動も一時的なものだと思うし。


『すぐに元の剛に戻るだろう』


そう思っていた私の考えは間違っていたのかもしれない。