「いえ、私は大丈夫です。もう一つのコーヒーはどちらに?」

「だから悠菜も座って。」

「いえ、仕事中ですので。」

「悠菜、座って。ほら。」


断っても断っても取締役も諦めてくれない。

折れた私が取締役の隣に座った。


「コーヒーでも飲んで休憩して。」

「取締役、変わられましたね?」


心の中の言葉が思わず冷めた声色で漏れてしまった。

何年も取締役の秘書として一緒に働いてきたが、明らかに私に対する接し方が急変した。


「最近の取締役は変です。」

「…………。」

「名前で呼んだり、優しくしたり…………。私は取締役の部下ですよね?」

「…………斉藤さん、ごめん。」


聞こえてきた弱々しい声にハッと我に返った。

隣に座る取締役と目が合うが、すぐに逸らされてしまった。


「すみません!」


立ち上がり深く頭を下げて謝った。

言い過ぎたと反省する。


「申し訳ございません!言い過ぎました。」

「いや、俺が公私混同してた。優しくすれば、斉藤さんに好かれるんじゃないかって……打算してた。」