「『いるよね?』…………って俺の彼女の話?」

「えっ?」


動きが完璧に固まった。

声に出てた?


「さっき聞こえたんだけど?」

「ああー、いえ、違います!」


アタフタする私は完全に怪しい。

何とか誤魔化したい私は振り返って最上級の笑みを浮かべた。


「違います。週末に出掛ける話です。」

「へぇー、そうなんだ。」

「仕事中に申し訳ございません。」


深く一礼をして、今度こそ扉を開けた。


「ふーん、俺、フリーだよ。」


背後から囁かれた言葉に聞こえないフリをした。

取締役室から出て、閉めた扉に凭れた。


「ふぅー。」


大きく深呼吸をした。

心臓がいつもより早鐘を鳴らしているのを感じる。

もう一度大きく深呼吸をする。

『落ち着け!』

誤魔化し切れていないのは明らかだ。

恥ずかしさから熱くなっている頬を手で押さえた。


「ふー、戻るか。」


最後に大きく深呼吸して、秘書課へと歩いていった。