「すみません、思わず笑ってしまいました。剛が私なんかを襲う筈ありませんから。」

「兄貴、そういう事。ほら、悠菜行くぞ。」

「取締役、今日はお疲れ様でした。」


深く頭を下げてから、剛に腕を引かれて歩き出そうとした。

背後から聞こえてきた取締役の言葉に大きく頷いてみせた。


「悠菜、今度は2人で。」

「はい。」


強引に腕を引かれていて、足を止めて返事をする暇もなかったが聞こえただろう。

夢心地な時間を過ごせた私はバーを出た。

剛と2人でタクシーに乗り込めば、一気に眠気が襲いかかってきた。


「剛、着いたら起こして。」

「ああ。」


剛の返事を最後に意識を手放してしまった。

気持ちの良い揺れに剛に凭れて眠る。


「本当…………。」


最後まで聞き取れなかったが、剛は何かを呟いていた。

眠気が襲いかかっていた私はそのまま深い眠りに落ちていた。

包まれる感触が心地良い。

きっと剛が凭れ掛かった私を支えてくれているのだと思った。

一週間の疲れとお酒のせいか…………全く起こされたのも気づかなかった。

心地良い眠りが私を包み込んでいた。