「剛も一緒か?」


エレベーター前で待っていた剛に気付いた取締役が小さく溜息を吐いた。

咄嗟に頭を下げて謝った。


「申し訳ございません。時間もギリギリでしたし…………勝手に了承してしまいました。」

「斉藤さんが謝る必要はない。剛、お前は役員ではないし、ちゃんと自力で向かえ。」

「別にいいだろ?ほら、遅れるよ。」

「ちょっと剛!」


声を荒げて剛を諌めれば、ニヤリとする顔に嫌な予感がする。


「怖い女。兄貴もこんな秘書でいいのか?」

「…………!」


唇を噛み締めてグッと堪える。

これ以上の挑発に乗るわけにはいかない。


「いつも怖すぎ。」


クスリと笑う剛を睨んだ。

そんな私の肩をポンと叩かれて我に返った。


「斉藤さん、行こうか。」

「はい。」


取締役の後ろを歩いていく。

隣に並んだ剛に視線は向けなかった。

無視に限る。

彼はいつもイジワルばかりを言ってくるのだ。