「確か………仁(じん)の秘書の斉藤さんだったね。」

「はい。」


深く一礼をした。

頭を上げれば、社長と目が合う。


「何か問題かね?」

「いえ、いつも榛名取締役には頼ってばかりで申し訳ないと…………。」

「仁も若いキミには甘いんだろう。ほら、我が家は男兄弟だからね。妹のようで可愛いのかもしれない。」

「妹…………。」

「女性のキミには失礼だったかな?」

「いえ、とんでもないです。」

「気にせず、仁を頼りなさい。それで仁も成長していく。」

「はい。」


もう一度深く一礼をした。

通り過ぎる際、優しい手が頭に触れた。

少しだけ顔を上げれば、秘書の並木さんだった。


「斉藤さんも一緒に成長してね。」

「はい。」


私より一回り以上は上だろう。

歩いていく二人の背中を見送った。

素敵な社長、引けを取らない秘書の並木さん。


「凄いな。」


そんな二人の姿をずっと見つめていた。

私と榛名取締役もいつかは…………。


「って、社長秘書なんて無理かな…………。」


ずっと隣なんて歩けないかもしれない。

だって社長秘書なんて私には荷が重すぎる。


「今だけか。」


榛名取締役の隣にいられるのは今だけかもしれない。

未熟すぎる私には無理だろう。

そう考えると寂しさが募ってしまう。

見えなくなった大きな背中に、私は秘書課へと歩き始めた。