タヌキが副社長のことを”あの子”扱いしていることと谷口がタヌキのものかどうかは置いておくとして、副社長に残務を押し付けろという発想はさすがにタヌキ。

「いくらなんでもわが社の副社長に仕事を押し付けるのは無理ですよ」

当たり前の返事をしどうしたものかと考えを巡らせるがタヌキは”そのくらいやらせてもばちは当たらないのに・・・”と不服そうに口を尖らせている。

とりあえずタヌキの意見は無視だ、無視。


こんな時、アイツならどうするだろうか。

由衣子

俺の大事な唯一の女はこの会社イチの頑張り屋だ。
俺と同期の女にして営業成績はここ二年ほどで更に上がっているいわゆる出来る女。
さらに細身だが凹凸はしっかりとあり、力強い瞳が印象的なかなりの美人だ。

普段は作り笑顔しか見せない彼女が本心から笑うと、少し上がった目じりが途端に柔らかく緩み硬い印象がほわっとしたものになる。
まさにギャップ。

家庭に縁がなく、初めて大人の恋をしようとした途端にそれは不実なものだと気が付き傷ついて恋愛する心を閉ざした彼女。
入社時から彼女のことが気になっていた俺は傷ついた彼女のそばにいてやることしか考えられなくなっていた。
彼女の心の傷の根は深い。
両親の離婚も不倫によるものだったという。

薔薇の花に例えられるほどの美しさを持った彼女には花を摘み取ろうとする悪い奴や興味本位で近づいてくる虫も多い。近づいて来る奴の中にはもちろん本気の男もいるけれど、今のところ彼女が男性として興味を持つオトコは出現していない。

あれから3年、そろそろ彼女との距離を同期としてではなく男として縮めていこうかと思った矢先に彼女の心に傷を付けた原因の男が北海道から帰ってきた。
しかもまた彼女と同じ部署に。
一生北海道から戻って来なくてもよかったのに。おまけに今週の初めから彼女と二人でイタリアに出張に行っているし。
ああ本当にイライラする。