首をかしげる私に
「悪かった。難しい話は後にするか。今すぐにしなきゃならん話でもないんだし」
と目の前にウニのムースで包まれた茄子が差し出される。

箸でつまんで差し出されたそれを見ながら上目遣いで高橋の顔を見ると、ほれ口を開けろと促される。

私の好物をわかってやってくるこのオトコには敵わない。

無言でぱくっとほおばると、じわーっとウニの風味が口の中に広がっていく。

「んー、美味しい」

「そうだろ。じっくり食おうぜ」

目の前のオトコはニヤリと笑顔を見せて日本酒を口に運んだ。

まあ、面倒くさい話は後でいいっか。
目の前にある綺麗な料理を堪能することに決めて私はお箸を手にした。

1ヶ月振りに会う彼との食事は三割増しで美味しかった。

「今夜はここに一緒に泊まれるってこと?」

「もちろん。そのつもりで仕事を片付けてきたし、明日も1日休みだから観光してから帰ろうぜ」

「いいの?」
それもこれも嬉しい予想外。

顔の筋肉が緩んでしまうのは許して欲しい。だって顔を合わせるのが1ヶ月振り。ゆっくり過ごすのなんて2ヶ月振りなんだから。

「でも、こんな素敵な宿を譲ってもらってよかったのかな」

早希と副社長はどんな所に行ったのだろう。

「康史さんと谷口も今頃旨いもん食ってるんだろうな。向こうは洋風創作料理のはずだ」

早希たちの行き先を知っているらしい口調に首を傾げると
「この近くに康史さんの知り合いのリゾートがあるんだ。よく二人で行ってるらしいよ」

そうなんだ。
だから早希はこの辺りに土地勘があったのかなんて昼間の早希の運転を思い出す。
車のナビは設定してあったけれど、迷いのない運転をしていた。