ほいっと目の前に日本酒を差し出され、おとなしくお酌を受けた。
「まあそう言うなって。ここんとこ康史さんも結婚式の根回しやイタリア支社設立の件で大忙しで谷口とゆっくりできてなかったっていうし。今夜は譲ってやれ。
その代わり俺が由衣子の相手をするし、近々谷口と由衣子の時間を作ってもらえるように康史さんに言ってやるから」
・・・イタリア支社。
その言葉にドキッとする。
「断ったんだってな、イタリア支社行き」
「情報早いね。どうしたいかって聞かれて返事したの昨日だよ?」
「イタリア行きを由衣子が即決で断ってきたってタヌキがこっそり教えてくれた。
その後すぐに社長から連絡が来てさ、お前のこといろいろ聞かれたよ」
「社長がいろいろ?」
「由衣子がアクロスやめるんじゃないかとか、どっかに引き抜かれるんじゃないかとか」
「は?」
予想外の言葉に思わず声が出る。
「社長にしたらイタリア行きを由衣子が断るのも想定内だったはずなんだけど、もしかしたら違う意味で断ってきたのかもと心配になったらしいな」
社長の中では私が断るだろうというのが想定内だったのか。



