彼の隣で乾杯を

「来なくてもよかったとか言うな。お前のことだから一人で大泣きしてたんだろうが」

ワイシャツの第一ボタンを外してソファーの背もたれにドンっと背中をつけると、高橋は呆れたような目を私に向けた。

ひとりで泣いていたことは否定しないけどね。

「大泣きはしてない。大泣きできるほどの情報がないもん」

高橋を睨んで見せると、「とりあえずここに座れ」と彼がソファーの自分の隣のスペースをとんと叩いた。

座れなんて命令口調にムッとしてしまう。そもそもここ私のウチなんですけど。

口を尖らせる私に「早くしろ。立ったままじゃ話もできねーだろーが」と今度はとんとんとリズムをつけてさっきよりも大きな音を立ててソファーを叩いてくる。

「狭いからいい」

学生時代はラグビー部所属だったという高橋の大きなガタイではうちの二人掛けソファーが窮屈に感じる。
二人掛けだけど、高橋が座ったら一人サイズみたいなものなんだから。
それにわざわざくっついて座る意味もわからない。

「いいから来いって」
いきなり腕を引っ張られ「ぎゃっ」と色気も何もない悲鳴が出てしまい、一瞬のうちに高橋の膝の上に倒れ込む。

「何すんのよ」

「”ぎゃ”だって。これのどこが”海外事業部の薔薇の花”だよ。色気のないやつ」

文句を言いながら高橋は自分の膝の上から逃げようとした私のわき腹と腰のあたりに両手を差し込み、ひょいっと軽々と持ち上げてぽすんと自分の隣に座らせた。

・・・狭い。
高橋のスーツの足と私の薄手の部屋着の足がぴったりとくっついている。

触れあっているところからお互いの体温を感じてしまい、こんな状況だというのに胸がドキドキとしてくる。

恥ずかしくなって俯くと、私の頭に高橋がそっと手のひらを乗せてきた。