早希と別れた私は会社員の務めを淡々とこなしていく。
社長とその秘書の林さん、小林主任とキネックス社担当の後ろについてせっせとご挨拶をして回るのだ。

時折早希と副社長に視線を向けてみるけれど彼らのあいさつ回りも順調らしく大きな問題はないように見える。

綺麗な早希と元モデルをしていたというイケメン副社長のカップルは嫌味なほどお似合いで、おまけにわかりやすく副社長が早希にベタベタしている。
ここに割り込む度胸がある人なんているんだろうか?普通の感覚を持った人ならまず無理だろう。

二人がキネックス社の社長と噂の営業部長に挨拶した時は我がアクロスの社長はじめ私たちも揃って同席した。

一触即発・・・なんて心配は全くいらなくて。

問題のキネックス社の社長の息子である営業部長は早希を見て「やっぱ綺麗だね」とひと言褒めただけで終わったことに拍子抜けしたくらい。

アクロスの誰もがホッと息を吐いたーーーと思う。
たぶん、キネックスの部下たちも。

すぐに副社長は早希を連れて他の参加者の元にあいさつ回りにと向かってこの場を離れている。残ったうちの社長はキネックスの社長たちと和やかに会話を始めた。

んん?
そんな中で自分への視線に気が付いた。

「キミは海外事業部の中で何を担当しているの?うちの担当じゃないよね」

話しかけてきたのは例の営業部長で、私はビジネス用の笑顔をぴったりと顔に張り付けた。

確かにコイツちょっと顔はいい。
うちの社長と副社長の兄弟や私の恋人である高橋と秘書の林さんには大きく負けるけど、コイツもイケメンの部類に当てはまる。

ちょっと日焼けした肌にきちんと手入れされた白い歯。上等なスーツと高級時計。
整えすぎた眉毛と長すぎるまつ毛は私の好みと正反対だけど、あれがいいという女性も多いだろうし。

「はい。わたくしは主にイタリアのアンドレテ社をはじめとする海外の現地企業の担当をさせていただいております」

わざとらしいほどの営業スマイルを向けてやった。
正直なところ、私の担当ではないこの人に媚を売っても得がない、ないどころかマイナスだ。