「あら、大丈夫?ブリーフケースの中のパソコンは無事?」

後ろの席の東くんが慌てて何処からか飛んできた台拭きで書類をぬぐっているのを見ながら石田さんに声をかけた。
八木さんは脛を押さえて痛がってるけど・・・ま、頑丈だから大丈夫か。

「佐本さんったら。明らかに今の騒ぎの原因は佐本さんの今の発言ですよ」

何だろう、私何だか責められてる?
わからないと首をかしげると、菊地ちゃんが追いうちをかけてくる。

「ツンデレですね」

「ツンデレって何が」

あーもう!と菊地ちゃんが焦れたように握った手を小さく振っている。

「いい加減にしとけ。まだ仕事中だぞ。それに薔薇姫は無自覚だから言っても無駄だ」

窓側の席から小林主任の声がした。
注意しているというよりは面白がってるようにも聞こえるその言い方。

周囲からの視線も気になるけれど、主任の言葉も一部引っかかる。
何だ、無自覚って。
ただ、今は業務時間。ムッとしながらも黙ってパソコンに向かった。


なぜ、私たちが会えていないかって、それは高橋が忙しいってだけじゃなくて、先週私がまたイタリア出張だったから。
出張さえなければ先週は土曜か日曜には会えていたはず。

ため息を堪えてその日の業務を終えた。