私に近づくなオーラをバンバンと出しながら退社するとそのまま急いで早希のアパートに向かった。
タクシーの中で何度も電話をかけてみるけれど、相変わらず電源が入っていない。

震える手を握りしめ、眼を閉じると怒りと動揺でまぶたの裏が赤く染まって見える。
どうかアパートに戻っていてと心の中で強く強く願う。

タクシーを降りて駆けだした。
学生時代から住んでいるという早希のアパートはエレベーターなし、4階建ての2階の角部屋。
早希もそこそこのお給料をもらっているはずだけど、堅実な生活をしているって感じの質素なアパートだ。

私の期待も虚しく帰宅している様子はなく早希の部屋は真っ暗。
チャイムを押してもノックをしても返事はない。

早希のことだ、副社長がアパートに来ることだって予想していただろう。
追いかけて欲しいのならともかく、本気で逃げ出したのならここにいるはずなど絶対にない。

昨日は電源を落とすことができなかった早希のスマホも今日は電源が落とされているのだから、今日の彼女の本気度がわかると言うものだ。

・・・でもこれでは私とも連絡が付かないじゃないか。

真っ暗なアパートを後にして私たちがよく行っていた居酒屋、ショットバー、カフェと回ってみたけれど早希の姿はなかった。

どこにいるの早希。どうして私に連絡してこない。

ああ、ダメだ。
自分の心身が闇に引きずり込まれそうな黒いため息が出る。

いつまでもぐるぐると探し回るわけにもいかず、早希のアパートから駅二つ離れた自分のアパートに帰るしかない。
仕方なく何度もため息をつきながら重い足を引きずり岐路に着いた。