彼の隣で乾杯を

イタリア支社に関する話はそれで終わり、それからはまた料理とお酒に舌鼓を打った。
お酒と言えば梅干し入りの焼酎が一番だったけど、昨日と今日飲んだお酒も極上だ。


「おい、由衣子。そろそろ部屋に戻るぞ」

ワインを飲み過ぎてうつらうつらし始めた私の腕を高橋が掴んだ。

「全く毎晩毎晩飲み過ぎやがって」

うん、うん。その通りでございます。
だって、特に今夜は飲まなきゃやってられないのよ。

持ち上げられるように立たされ、マーブル夫人へ美味しい料理とワインのお礼を言うと抱え込まれるように腕と腰を抱かれて強制的に歩かされる。
今夜も出荷される子牛のようだ。

例の交換したスイートルームに入ると、さすがに一番上等なお部屋だ。豪華な家具、調度品が眩しくてくらくらする。

毛足の長い絨毯にハイヒールの踵が深く刺さりちょっと歩きにくくてぽいっと脱ぎ捨てた。
「おい・・・」と呆れ声が頭の上から聞こえたけれど、そこは聞こえないフリをしてリビングのソファーに崩れるように座り込んだ。

「おい、そんなとこで寝るなよ。眠いならベッドに行け」

私から離れてシャツの首元のボタンを外しながら備え付けのBARコーナーに向かう高橋の背中を横目で睨みつける。

ベッドなんかに行けるわけないじゃない。このスイートルームのベッドは一つしかないんだから。

「スイートルームのベッドは特別製ですから大きな身体のお連れ様と一緒でもゆったり眠れますよ。ふかふかのマットレスの感触をお楽しみください」とマーブル夫人に言われたのだ。

いや、恋人でもないのに楽しめませんよと言いたかったけれど我慢した。言い返しはしなかったぶん余計に気まずくてそれからたくさんアルコールを流し込んだんだから。

このままこのソファーで寝てもいいと思っていたし。ただいつものように高橋は私にベッドを譲ろうとするだろうけど。

スタスタとBARコーナーに向かって歩いていたはずの高橋がいきなりクルっとこちらを振り返った。
突然振り返られて睨んでいた私は仰天してしまう。

「なんで睨んでんだよ」

何でって、そりゃあんたが私の乙女心を理解してないからでしょうが。
黙ったままため息をつくと高橋がくすりと笑った。