「野球…?」
「香緒ちゃん、バスケじゃなくて?なんで…」


「うん野球。そんなに意外?私がバスケより野球が好きなんて、そんなの颯人くんが一番知ってるじゃん」


叶にいはバスケ一筋で朝練・午後練・休日練と部活に費やすことが多かったから、放課後遊びに連れ出してくれてたのはほとんど颯人くんだった。
よく連れて行ってくれたのがプロ野球の試合で、ナイターの高揚感とかメリハリのある試合運びとか、何かが私の心を掴んで気付いた頃にはすっかり野球観戦のトリコになってしまって。
バスケをしている叶にいはかっこいいと思うけれど、バスケの試合は私にとって見るのが大変だった。ボールがものすごいスピードで回されていって、集中力を要する感じがどうしても苦手だったから。

「でもなんで急にマネージャー?中学の時だってやってなかったじゃん」

「中学の時と同じことじゃないとしちゃダメなの?」

「そういうわけじゃないけど、でも…」

イライラする。らしくなく、はっきりしない颯人くんに。

「香緒ちゃんが絶対やりたいって言うなら反対しないけど、だけど違うんでしょう?」

イライラする。2人に置いていかれたくなくて、ならいっそ離れてしまいたくて。だけど、気を引きたくてわかりやすく嘘をつく自分に。

「なんで絶対じゃないって決めつけるの?もうすでに反対する理由は何?」

「それは…」

イライラする。
私たちはいつから言いたいことがこんなにも言えなくなってしまったのだろう。
変えたいって思うこの関係も、勝手に変わっていってしまうのは受け入れられなくて、

「なら!私が何やろうと勝手だよね?」
「颯人くんが何考えてるのかわからないよ!今日来た理由も言ってくれないし……もういい!」


こんな風に声を荒げるしかできない自分につくづく嫌気がさした。