「いえ、別に。
 当時も特に好きだったわけではありません」

 みんなにつられて、うっかりチョコを渡してしまったり。

 ……いや、みんなは渡してなかったんだが。

 月を見上げて語る姿を見て、うっかり、ちょっと格好いいな、と思ってしまったりしただけだ。

 だが、この辺から、のぞみは、おかしいな、と思い始めていた。

 なんで、私が専務を好きで付き合っていることになっている? と思ったのだ。

「あのー、御堂さん、ほんとに話、聞いてました?」

 すると、祐人はまだ湯気の上がる珈琲を前に腕を組み、言ってくる。

「専務室の扉も壁も厚いのに、聞こえるわけないだろう」

 罠だったーっ! とのぞみは頭を抱える。

 鋭い祐人のことだ。

 二人の言葉の端々や、目線からなにかを感じ取り、カマをかけてみただけだったのだろう。

 のぞみは立ち上がると、広いテーブル越しに祐人の組んだ腕をつかみ、懇願する。

「御堂さん、このことはご内密にーっ」