お手上げみたいに両手を上に向け、紫苑が椅子から立ち上がる。


「萌音の言う通りだよ。カップ麺とかおにぎりとか菓子パンとかサンドイッチの繰り返し」


とにかくお腹に入ればいいんだと呆れる台詞を言うもんだから、思わず問い質してしまった。


「紫苑にはお弁当とか作ってくれる女性いないの!?」


それは昼間に何度か他の女子達から聞かれてたことだ。
「社長には特定の彼女がいるんですか?」と複数の人から訊ねられてる。


(まさかそれを自分で聞く羽目になるとはね)


頭の中で呟き、じっと紫苑の返事を待った。



「……いる訳ねえだろ」


不貞腐れた様子の紫苑が椅子に座り直し、再びマウスを握る。キョトンとしながらその姿を視界に入れ、なんとも言えない気持ちが胸の奥に広がった__。


「それは……彼女がいないってこと?」


とっくに三十歳も過ぎてるのに?


「そうだよ、悪いか」


仕事だけで手一杯なんだ、とこれまた呆れるような言葉が飛び出す。


「…何だよ」


私がぽけっとしてるからだろうか。
紫苑の視線がこっちを捉えた。


「いや、あの…意外過ぎて…」