秘書という仕事に就かされたものの、紫苑のスケジュールなど知らない私は、彼に直接訊ねる方が早いと感じた。


「予定は何もないぞ」


スケジュール帳を開くでもなく、そう言い返してくる。それから私の都合は大丈夫なのか?と訊ね、「何もないならその日にすればいい」と勝手に決めてしまった。



「じゃあ柴原さんにはそう言っておくから」


ピッチで内線番号を押し、電話に出た柴原さんに「社長は大丈夫そうなので、その日でお願いします」と伝える。

彼女は「了解しました」と明るい声で答え、「店を押さえたらまたお知らせしますね」と言って電話を切った。


「はぁ…」


重い溜息を吐いたからか、紫苑が不思議そうに見遣る。
私はそんな彼の目線に自分の視線を合わせ、「何だか妙な感じ」と肩を竦めた。


「歓迎会を開いて貰えるなんて大卒以来だから」


新入社員として銀行に入った時以来だと思い出し、少し緊張するな…と考えていた。


「そう言えば、萌音はずっと派遣で働いてたからな」


社会的な責任も負わず…と言いたげな紫苑を眺め、まあね…と答えて目を逸らす。