「何だ」


睨まれる覚えのない俺は、首藤を見上げながら訊ねる。彼はコピー用紙で口元を隠しながら顔を近づけてきて、「美人じゃないですか」と囁いた。


「ズルいですよ、あんな美人と二人だけで仕事なんて」


面白くなさそうな顔つきでいる。
俺はそんな首藤の表情を眺め、ズルいと言われてもなぁ…と弱った。


「仕方ないだろ。オフィス内には秘書室がないんだから」


五階部分は一部しか借りてない。そこに秘書室まで作る余裕はないんだ。


「そんなこと言って、変なことしないで下さいよ」


どういう意味で言うのか知らないが、そんなことする筈もない。


「しねえよ」


プライベートと同じ様に答えると、首藤は安心したように離れていく。
その後は仕事の話を始め、三十分程度そこに居た。


その間、萌音はキーボードを黙々と操作をしていた。
首藤はその様子を時々視界に入れ、俺はその度に「ゴホン」と咳を払う。

そうして首藤との話が一段落した頃、萌音は「総務部へ行ってきます」と席を立ち、ドアを開けて出て行くのを見た首藤が振り返って、「いいなぁ」と羨ましそうに呟いた。