昨日、病院から帰って考え抜いた。
紫苑のオフィスにとって、自分がどういう立場でいればいいのか。

仕事上から見れば、首藤さんは紫苑のオフィスには欠かせない存在だと思ってる。

でも、彼を頑固に解雇させると言い張る紫苑の気持ちを変えさせるには、私がこのオフィスにいない方がいいのも確か。

そもそも、私自身が此処で働く意欲が減退してる。
昨日のことだけでなく、一昨日のことを思うだけでも足元が震えてきそうな気がするから。



「逃げるのか?」


紫苑は睨む様な目つきで訊いてきて、私はビクッと肩を揺らした。


「逃げるつもりじゃ……」


ありません、とハッキリ答えれない。
紫苑から見れば、私の行動は逃げでしかないと思うから。


「昨日……」


紫苑の声がして、私の全身に緊張が走る。
顔を強張らせて彼を見下ろすと、一度ぐっと言葉を飲み込み、それでも再び口を開いてこう言った。


「患者の一人が教えてくれたんだが、萌音は変な野郎に何か言われてたのか?
お前が怯えてる様だった、とその人が言ってた。
パニックみたいになったのも、そいつの言ったことが原因か?」