翌朝、家を出ると門扉の外には紫苑の車が停まってた。
彼は私を見ると車から降りてきて、「乗れよ」と言って、後部座席のドアを開けてくれる。


「一緒に出勤しよう。電車に乗るよりもいいだろ」


今ならまだオフィスに来る人間も少ない。
車は地下の駐車場に停めるし、人目にも付かないから気にするなと言う。


「…………」


正直言うと少しホッとした。
満員の電車に揺られる自信はなかったからだ。


本当は出勤するのでさえも躊躇(ためら)われたし、昨日の今日で体も凄く重かった。


だけど、私には考えがあって。
それを実行する為にも、嫌でもオフィスへ行く必要があった。


きゅっと唇を固く閉ざし、無言のまま紫苑の車に乗り込む。
それを確認した紫苑は小さく溜息を吐き、自分も運転席に座る。


助手席じゃなく後部座席にしてくれたのは、紫苑の心遣いだと思う。
昨日彼を拒絶した私に、彼自身が傷付いたのかもしれないけど。


私としては後者じゃなくて前者の方だと思いたかった。

どんなに私が拒否したとしても、紫苑だけは自分の味方でいて欲しい…と勝手にそう願ってたんだ。