頭を下げると、なぁに大したことないよ、と去って行く。
俺は深く頭を下げてその人の背中を見送り、もう一度その男を視界に入れた。


男は背が低くて小太りだった。
季節感のない服装をしていて、見るからに少しおかしい奴だと思われた。


そんな男に萌音が何を言われたのか、それを正直に話してもらうにはどうしたらいいのか。


「あんなに強く拒まれたら困るな」


さっきの萌音の様子は尋常じゃなかった。
昨日の様子も変たったし、何処かパニックに近い雰囲気も感じる。



(パニック……?)


あの強がりな萌音があそこまで動揺するって何だ。
あの男が萌音に何かをしたのか?

あいつを問い詰めれば何か分かるのか?
しかし、あんなのに関わりたくもないし……。


悩んだ末に声をかけるのはやめた。
何らかの関係があるとしても、この病院に立ち寄らなければ会うこともない。


(それよりも萌音の様子が気になる)


あの調子で帰したが大丈夫か。
タクシー内で声を上げて泣いてるんじゃないか。


気が気でないが仕事にも行かないといけない。
午前の予定をキャンセルした分、分刻みでスケジュールが詰まってる。