「お客様に好かれてるなら何よりじゃないか」とも言われて、「好かれてる訳じゃありません」と訴えても受け付けて貰えずに知らん顔。

どうすればいいのか分からないままに数ヶ月が過ぎて、実害は特別なかったから、私は警察にも言えず我慢をしていた。


でも、夏が過ぎようとしてた頃から次第に食欲もなくなり体重が落ち始めた。
三ヶ月決算の後に赴任してきた新しい支店長は、そんな私の変化にも気付いたらしく。


「何か悩んでるの?」と訊いてくれた。
私は実害はないけど一人のお客様にターゲットにされて困っていると伝えた。


支店長は話を聞いて気の毒がり、私を窓口業務から外してくれた。
ホッとしたのも束の間、今度は退勤後の自分を待ち伏せされるようになったんだ。



『三橋さん』


声をかけてくるだけで満足なのか、知らん顔して逃げても付いて来ることはない。
だけど、あのニヤついた笑顔が恐ろしくて、私は銀行を出る度に足が竦んだ。


半年決算があったあの日は残業をしていて、いつも以上に銀行を出るのが遅くなった。