教会の中に入った。



慌ただしい顔をして、マッドと、鉢合わせた。


とても怯えている。


マッドは、あの人が苦手なのだ。


あの人の前まで行くと、私は、今までの心の声とは、裏腹に、


「お呼びでございますか?ハート夫人。」


と、心を明るくして、丁寧な口調で言った。


「遅いわよ!!!アリス!!!待ち過ぎて、死ぬところだったわ!」


死なないだろ。



ハート夫人。

この教会三大迷惑人のひとり。

待つのが大の嫌いで、

すぐ、キイキイ怒った、甲高い声を出す。

とにかく、自分の思い通りにならないのが、いやらしい。



アリスの、ハートの女王みたいだ。






「それは、どうもすみませんでした。
では、ご要件を承りましょう。」







さっきとの態度の違いに、悪魔は、くすくす笑っている。






私は、それをあえて無視する。


こいつの性格を知っているから。


最強の寂しがり屋のかまってちゃん。


だから、無視をしても、支障は、無い。


勝手にあっちからよってくる。









「あぁ、そうだったわ。あの、泉の聖水をいただけるかしら?」







!?!?









フェアリーの、聖水を?

そんなこと、







「それは、無理にございます。」

「なんで?」








すぐに、返してこないでよ。










「女神様の聖水は、限られた量しかありません。それより、ハート夫人は、聖水を何にお使いですか?」



これ聞いても、あまり意味無いけど、聞いてみる。












「それは、もちろん自分のために使うのよ。ここの聖水は、万能らしいじゃない?生命を長くさせるとか、若返らせるとか、その効果が欲しいのよ。」










自分の欲……













「…それは、できません。残念なことに、女神様は、気分屋でございます。それに、女神様が、作る聖水は、効果が抜群なので、誰もが欲しがります。
だけれど、わたくし、教会のものは、そういう“欲しい”と言われて、誰にもあげては、いません。もちろん自分達にも使っては、いません。
何度も言いますが、聖水は、女神様が作りたくなったら、作り、作りたくなかったら、作りません。
今は、作りたくない気分なのでしょう。作りたくなるのを、待ちましょう。」







とにかく、今出来るのは、説得だけ。

あてに出来るのは、特にない。





少し私は、焦った。






頭を一礼した。










顔を上げた。



ハートの女王が、肩をわなわな震わせている。