ずっと君の近くで。

「ん…」

目を覚ますと、私はベッドにあおむけになっていた。

独特な薬品の匂いが漂う。

ここは、保健室か。

そういえば、私何してたんだっけ…

「あっ、起きた?」

「えっ」

横から声がして、私は驚いて勢いよく上半身を起こした。

だって…この声は…

「おはよう。大沢夢花さん」

隣から声がして、ハッと横を向くと…

「…う、嘘…」

私の隣に立っていたのは、

あの憧れの、大村良太先輩だった…。

「な、なんで…」

「夢花さん、俺の友達に思いっきりボール当てられて、倒れたんだよ。
だから、運んできた」

「え…」

私は、今の状況が飲み込めなかった。

私の憧れの先輩が、隣で私に向かって話してて、それに、運んでくれたって…

「あっ、重くなかったですか!?」

「ううん。全然大丈夫だよ」

よかった…でも重かったよね。

「今度、ちゃんとお礼しますからっ」

「いや、大丈夫だって。心配しすぎ」

「でも…」

なんてったって、憧れの先輩が私を運んでくれたなんて…

ダイエットしとけば良かったな。

でも…嬉しい。

これで接点ができたよ!

ボール当ててくれて感謝だわ。

「ガララッ」

保健室のドアがあいて、誰かが入ってきた。

誰が入ってきたのかな、と思ってドアの方を見ると、

「夢花ーっ!!!」

と叫びながら、女の子が私に抱きついてきた。

「マ、マナ…?」

私に抱きついてきたのは、親友の三上マナだった。

「もー心配したよー…」

「ちょ、マナ…」

隣に先輩がいるのにー!

「は、はなして」

「憧れの先輩が運んでくれてホント良かったねぇー。でも真希が怒ってるだろうね」

ふいにマナに耳元で呟かれた。

「あぁ…真希ね…」

笹野真希。私とマナの友達。

実は、真希も先輩が好きなんだ。

でも、私が先輩のことを好きってことは、伝えていない。

だって…私の恋はきっと叶わないから。

真希はすごく可愛くて、同じテニス部所属。

だからきっと真希の恋は叶うよね…。

「あっ、ごめーんもう行くわー」

マナがパッと私から離れて、手を振りながら出ていった。

「…さすが三上さん」

「ホントですよね…」

マナはいつも元気がある。

先輩まで言うんだからね…。