「こっち!こっち!」


賑わった大衆居酒屋でもないのに、
大きな声で私を呼ぶのはやめて欲しい。


返事をしないでゆっくり声の元へ向かった。

「こんな所で大きな声を出さないで。」


「えー。誰も聞いてないよー。」


……。この子は周りが見えないのだろうか。


「夢。いい加減にして。」


真顔で軽く睨みながら言うと、シュンっと子犬のようになった夢がモテるのは何となくわかる気がする。


「そんなに怒らないでよー。紅(くれな)怖いよー。」


ぷくっと頬をふくらませながら夢はカウンターに項垂れた。


ここは隠れ家のようなバーで、客取りはそんなに多くない。


人が多いところが苦手な私には有難い。