「潤、お父さんは何色が好きだと思う?」
「青!」
「そう、青。海の色、空の色。潤は何色が好き?」
「じゅんも、青が好きだよ!」
「そうか、おんなじだ。」
たぶん、そんな会話が最後だったと思う。
お父さんは私が9歳の時に交通事故で亡くなった。
高校2年になった今、父の記憶は曖昧だ。
印象に残っているのは、海と空が好きで、青が好きなこと。
母は父が亡くなってから、父の話を全くしなくなった。
元々精神的に強くはなかった母は、父の死を境に全くと言っていいほど別人になった。パートで生計を立て、私を一人で育ててくれた。けれど、笑顔はほとんどない。温厚で笑顔の絶えない人だった母は、今では氷のような人になってしまった。
きっとそれは、私も同じ。
よく、笑っていた。
父の好きな言葉が「笑う門には福来たり」だったために、
家族は皆笑っていた。笑えばいいことがやってくる。笑っていれば辛いことも乗り越えられる。
幼かった私は、本気でそれを信じていた。
父が亡くなった日、私は笑っていたんだ。
辛い時こそ笑えってお父さんがいっていたから、なんて。
本当に幼稚で馬鹿だった。
「お母さん、大丈夫!お父さん戻ってくるよ!」
笑っていた。ずっと。母のために。
「笑わないで。お願い、笑わないで。笑っても意味ないのよ。」
母は私に吐き捨てた。
葬儀の時、私は笑って父を贈りたかった。
父の前ではずっと笑顔でいたかった。
けれど
母にそう言われたその日から
私は笑わなくなった。
笑わないのではない。
笑えなくなってしまったのだ。
笑顔というものの作り方を、失ったのだ。
