「おい、聞いてんのか」

玲雄様に再度声をかけられ、ハッとする。

『申し訳ございません。鏑木梨生奈、と申します』

そう言って頭を下げる。

「そうか」

それだけで近くのベンチに座ってしまった玲雄様。

『(何だったのかしら・・・。)』

不思議に思ったけれど、仕事を終わらせなければいけない。

そうでないとあの男が、、、。

そう思って、再び庭の草を刈っていると

「おい、鏑木、、、梨生奈とか言ったな」

と、玲雄様に声を掛けられる。

『はい、何でしょうか』

「お前、、“純血”、か」

「・・・は?」

急に、純血と言われても、

『申し訳ございませんが、意味が分かりかねますが、、、?』

ほんとに何を言っているのかわからない。

「・・・チッ」

めんどくさそうに首筋を掻きながら、こちらに歩み寄ってくる。

そして、そのまま

『え、ちょ、え!?』

「ここじゃなんだから家の中行くぞ」

私の手首を引っ張っていく。

『ちょ、お待ちください!』

使用人の、それも下のほうのものが、中に入っていいわけない。

私は玲雄様の歩みを止めようと声をかけるが。

「待たない」

頑なに歩みを止めることなく歩いていく玲雄様。

男性の力にかなうわけもなく。

しかも玲雄様に強く抵抗できるわけもなく。

私はそのまま引っ張って行かれてしまった。


部屋に着くとメイドから驚愕の眼差しで見られた。

メイド「玲雄様、その女は、、!?」

「うるさい。これから2時間俺の部屋へは入るな」

メイド「、、、っ!かしこまりました」

近くにいたメイドに告げながら、玲雄様は私を部屋へ連れ込んだ。

『玲雄、様。連れてこられた理由を、「お前、“純血”だと知らなかったのか」』

私の言葉を遮り、そういって冷たい目を向けてくる玲雄様。

『“純血”、ですか』

そう聞くと、玲雄様は窓の外を眺めながら言葉を紡ぐ。

「そうだ。滅多にいないが、純血の人間がいるという」

そんなこと言われても、私は知らない。

「その純血の人間は、 “吸血鬼”  に人気が高い」

そんなこと、、、え?

『吸血鬼、ですか』

吸血鬼、なんて小説でしか読んだことのない私には、想像もつかない。

『本当にいるんですか、吸血鬼なんて』

そう聞くと、窓の外に向けていた眼を、こちらに向ける。

「ああ、いるぞ」

一歩、そしてまた一歩。

私に近づきながら、彼は言う。

「知ってるか、うちのグループの名前の由来」


「 “吸血鬼” からなんだよ」


「どうしてか知ってるか」


そこで私は押し倒され、腕を押さえられる。

「俺らの家系は吸血鬼だからなんだよ」

『え、なにをおっしゃっ、、いっ!』

首筋に鋭い痛みが走った。

と、同時に甘くてとろけるような心地よさが広がった。

血を吸われていると理解するのに、時間はかからなかった。

『(ほんとに、吸血鬼なんだ)』

血を吸われているというのに、恐怖は全くない。

チュッ、と音を立てて玲雄様の顔が離れていく。

「、、ふっ、やはり純血の味は違うな」

そういって、口角をあげる。

さらに、耳元に口を寄せて、囁かれる。

「明日、同じ時間に庭で待つ。絶対来い」

そう言ってから、離れていった玲雄様は部屋を出ていこうとする。

「あ、出ていくときは周りに気を付けて出ていくように」

そう言い残して出て行った玲雄様。

玲雄様が吸血鬼だと知り、さらに血を吸われた驚きで私はそこから動くことができなかった。