早瀬君は、さっきまで読んでいたミステリー小説を借りるらしい。

 図書カードと本に日付の判子を押して、「貸し出しは1週間です」と伝える。

 普段ならそのまま机に戻るのに、彼はそのまま動かずにじっと私の顔を見ながら口を開く。

「弓木さん、いつも、放課後1人だよね」
「うん。放課後は、図書委員長が1人でする事になってるから……」
「そっか。それは大変じゃない?受験もあるのに……」
「ううん。もう慣れちゃったし、あと1ヶ月だからね」

 ドキドキと心臓がうるさいほど鼓動する。

 早瀬君と話せるのが嬉しい。

 そういう反応だろう。

「あとさ俺……毎日、図書室を閉めるギリギリまでいるけど……迷惑じゃない?」

 突然の質問に私はパッと顔を上げる。

「いや、迷惑なら、本を返す時以外は来るのを控えようかなって思っ―――」
「迷惑なんかじゃない」

 早瀬君が言い終わる前に言ったせいか、少し驚いた顔をする。

「放課後の図書室は早瀬君以外来ないから…早瀬君が来てくれた時、少し嬉しいんだよね」
「………」
「それに、図書室の開館時間は45分までだから……ギリギリまでいたっていいんだし。上手く、言えないけど」

 一度口を開いてしまうと、次々と言葉が外へ出ていってしまう。何を言っているのだろうと思いつつ、もう止めることが出来なかった。

「だから……来ても、大丈夫」

 早瀬君は少し考えこむと、カバンを持って図書室のドアへ向かう。

 なにか、悪いこと言っちゃったかな……。