しかし時計が16時15分を指したら、私は1度手を止める。
図書室のドアが開き、通学カバンを肩にかけて、図書の本と図書カードを左手に持った大人しそうな男子がひとり入ってくる。
カウンターに一番近い机に、通学カバンを置くと借りていた本と図書カードを差し出した。
彼は、いつも放課後の図書室に来る唯一の人。
同じ学年、同じクラスの早瀬蒼汰(ハヤセソウタ)君。
私も口数は多くない方ではあるが、そんな私から見ても彼は無口だった。
そんなこともあり、クラスの中では、ほとんど会話を交わすことのない人だった。
「……ミステリー、好きなの?」
図書カードに判子を押しながら、私は早瀬君に話しかける。
「………うん。ミステリー、面白いから」
早瀬君も、小さな声で返事をしてくれる。
はい、と図書カードと本を渡すと早瀬君は受け取り、元の場所へ本を返す。
そして、またミステリー小説を探す。
その間、私はまた宿題や本を読み始める。
私が図書委員長になってからというものの、これもまた当たり前の光景になっていた。
そして、閉館時間ギリギリの16時40分まで図書室にいる。
彼も、ミステリー小説を読むか宿題をしているかの二択。
私とほぼ同じことをしている。

