満員電車に揺られる。
毎朝のことで慣れているがお酒の匂いが充満している車内では気分が悪くなりそうだ。

さり気なく新藤さんが壁になり、空間を作ってくれた。


「つかまって」


揺れる車内で新藤さんの細く見えて筋肉質な腕に掴まる。


「一駅だから我慢して」


「はい」


一駅と聞いて少しがっかりしたことは秘密だ。

次の駅で降りて大通りの信号を渡ると、正面に高層マンションが見えた。そこが新藤さんの自宅だと知り、驚く以上に切ない気持ちになる。
やっぱり新藤さんは遠い世界の人だ。


マシンションのエントランスはオートロックで、セキュリティーは万全。私の家とは大違いだ。
あのボロ屋に住んで、新藤さんは気分が悪くならなかっただろうか。


「入って」


通された玄関から見えるリビングはうちの居間とは比べものにならない程に広く、黒で統一された家具が高級な雰囲気を醸し出す。


「寝るだけの部屋だから何もなくてごめん」


「い、え…」


「水で良い?ソファーに座ってて」


黒い2人掛けのソファーと、壁際に大画面テレビ。本棚には仕事関係で読むのか難しいタイトルの書籍が並べられていた。


弾力性のあるソファーに座りながら、カウンターキッチンに立つ新藤さんを見つめる。


「落ち着かない?」


いつものように私の視線に気付いた新藤さんの言葉に頷く。

生活感がなく無機質でモデルルームにいるような感覚だ。


「まぁ警戒心を持って接してくれることは有難いよ。もう君を彼の妹としては見てないから」


透明なグラスに入ったミネラルウォーターを差し出される。


「ありがとうございます」


「君を、女の子として見てるから。もう刑事の自制心は働いてないし、気も緩んでる。俺が君の嫌がることをしようものなら、突き飛ばしてでも止めて欲しい」