「新藤さん、どうしたのですか?」
「家に帰るところ」
「どっち方面ですか?」
「こっち」
新藤さんが指差した側は倫也くんと同じ左側のホームだった。
「そうですか…」
一緒に帰れるかと期待したが同じ方面ではないようだ。そもそも私は新藤さんの自宅の場所を知らない。
「行こう」
「え、待って…」
しかし新藤さんは右側の階段を下りていく。
「送ってくよ」
「そんな!大丈夫です!新藤さん、終電なくなっちゃう!」
慌てて新藤さんの腕を掴む。
遅くまで働いていた新藤さんに手間をかけさせたくない。
「帰りはタクシーでも呼ぶよ」
「そんな無駄遣い駄目です!私は大丈夫なので真っ直ぐ帰ってください」
「夜道は危ないよ」
「防犯グッズ持ってますので。なので、ここで…」
「それじゃぁ君も、うちに来る?」
「え?」
掴んだ手は新藤さんに捕らえられ、手を繋がれた。
「おいで」
反対側の階段に誘導される。
繋がれた手は優しく、嫌だと言えば彼はすぐに足を止めるだろう。
けれど心では反対のことを思っていて、彼の気が変わらないうちに口に出す。
恥ずかしいけれど、黙っていては伝わらない。
「私…新藤さんの、お家に行ってみたいです」
「それは光栄です」
ふざけ半分な返事に笑い合う。
新藤さんと一緒に行きたいところなら、数えきれないくらいあるんだ。