翌日、カフェで参考書を受け取る約束をした。

高校まで届けてくれるようだったが大学まで受け取りに行くと私が譲らなかったため、高校と大学の中間地点の駅にあるカフェで待ち合わせすることになった。

偶然にも彼が名前を挙げた駅は、警視庁の最寄駅だった。別の場所が良いと主張すれば良かったものの、私は黙って頷いた。

何か用がなければ降りられないその駅の改札を突破する正当な理由が欲しかったのだ。

メールアドレスを交換するとご丁寧にカフェの地図が送られて来た。そのカフェは東都大学の卒業生が経営しているらしい。


1時間前に到着して先に店内に入る。


「いらっしゃいませ」


初老の男性に迎え入れられ、倫也さんの好きそうな落ち着いた雰囲気だった。

カウンター席がいくつかあり、テーブル席も5つ以上用意されていて、想像していたよりも大きなお店だ。



「窓際のお席にどうぞ」


4人がけで外の見える明るい席に案内されて、コーヒーの良い香りを意識しながら進む。


チェーン店以外の上品なお店は初めてだったし、いつも以上に周りが気になった。


だから、すぐに気付いた。

いや、きっと。
例え下を向いて歩いていたとしても、気配を感じとることができたと思うんだ。



2人掛けのソファー席でコーヒーを片手に雑誌をめくる彼の姿を。


ジャケットを空いている席にかけてシャツの袖をめくり、私が見たことのない柄のネクタイをした新藤さんは熱心に雑誌を読んでいた。