その日、私たちは一緒に帰った。

大学への好奇心はあるが人見知りの性格ゆえに上手く話題を提供できずにいる。

倫也(りんや)くんも無言で隣りを歩いていた。
というか彼、片耳にイヤホンしてるんですけど…私の存在を忘れてる?


青山先生が笑ってフォローしてくれて、
美崎さんが楽しい話や武勇伝を語ってくれて、
新藤さんが私でも分かる話題を振ってくれた。
どれだけ周りの人に気を遣わせていたのか、身をもって知る。


「倫也くん、」

信号が赤になったところで話し掛けてみる。
これからは自分で相手と積極的にコミュニケーションをとらなければ、大人にはなれない。


「あの、」


聞こえてないだろうとボリュームを上げて再度声を掛けようとすれば、倫也くんはこちらを見ていた。


「なに学部ですか?」


「法学部」


イヤホンを外して彼は答えてくれた。


「えっと、弁護士を目指してるんですか?」


「別に」


「……」


か、会話終了なんですけど!?


気まず過ぎて、早く青になれば良いと信号機を睨み付ける。




「大それた理由なんてないけど、法律知らないと損することがあると思うから、法学部にした」


やっと青信号に切り替わった時、彼は言った。


「あんたは?青山先生から最近志望校を変えたって聞いたけど」


パンツのポケットに手を入れてさっさと歩き出した彼に、慌てて返事をする。


「憧れの人が東都大学の卒業生なので」