「もう立てないくらい無茶しないでくださいね」
「…俺を責めるようなこと、なにも言わないんだね」
「兄のフリしてくれて、毎晩勉強も教えてくれて、一緒にご飯も食べてくれて。感謝の方が大きいですよ。ありがとうございます」
頭を下げる。
これで最後なのだから、笑って終わらせたい。
「新藤さん、お元気で」
「ああ」
傘を新藤さんに返す。
「雨が目に…」
横降りの雨が目に入る。
ああ、良かった。雨で。
「風邪引くから、もう行って」
「さようなら、新藤さん」
踵を返す。
もう振り返らない。
止める術のない涙が雨と混じり、頰を伝う。
「さようなら」
後ろで新藤さんの小さな返事が聞こえた気がした。



