車の後部座席に座り、窓の外を見る。
遅い時間ではあるがまだまだ人通りが多かった。
重い空気に部屋が包まれた時、玄関の扉が開く音がして、息を切らせ額に汗を浮かべた美崎さんが駆け付けた。
いつの間にか新藤さんが美崎さんに連絡していたようだが、もう何が起きても驚かない。
人生で一番楽しかった日が最も最悪な日に、変わろうとしている。
知り合いの病院に行こうと美崎さんが新藤さんを連れ出し、兄も付き添うと声を掛けたため、私も付いてきた。
もう兄から離れたくなかった。
兄の横に張り付くように車に乗った。
「元気にしてたか?」
「元気だよ。お兄ちゃんは?ちゃんとご飯食べてた?どこにいたの?」
「あの事件は俺的にもショックでさ、しばらくひとりになりたかったんだ」
「連絡くらいくれたら良いのに」
10ヶ月も音信不通だった。
「ちゃんと電話しただろう?」
「しばらく留守にする!ってだけね!!あんなの連絡のうちに入らないよ!」
けれどその10ヶ月の内、約半年。
新藤さんと共に送った日々は穏やかで、私が望んでいた生活だった。
「夏、心配かけてごめんな」
「お兄ちゃんなんて大嫌い」
口から嘘が飛び出る。
本当は兄が戻ってきたことに心から感謝をしている。無事で戻ってきてくれただけで、もういいんだ。



