「あ、またやってる。駄目です。命を粗末にしちゃ」
急に、声が聞こえて、ひょいと右手を掴まれ、カッターナイフの刃を左手から引き剥がされた。
そんなに強い力でやられたわけではない。美雪の身体が勝手に掴んできた手の言いなりに動いてしまったのだ。
手が離れて視界から消える。
美雪は、その手を追って椅子ごと背後を振り仰いだ。
そこに、黒ソフト帽、黒眼鏡、黒スーツ姿の男が立っていた。ワイシャツまで黒だ。
〈いや、白いからワイシャツであって、黒なら黒シャツでいいのかな〉
ネクタイだけが鮮やかな赤だった。
「だ、誰よ」
思っていたほど驚かないものなのねと思いながら美雪はその黒ずくめの男に向かって誰何した。
「あ、危ないですから、それしまってください。決して怪しい者ではないですから、はい」
黒ずくめの男は両手を前に上げて、彼女を抑えるように言った。
美雪は、それで自分が刃を出しっ放しのカッターナイフを握ったままなのに気付いた。
「あら、ごめんなさい」
急いで刃を引っ込めて、背後の机の上に放る。
?・・・なにか変だ。
「それで、あなた誰なの、どろぼうさん?」
改めて訊く。
「ああ、これはどーも、まだでしたね。わたくし、いわゆる、悪魔です」
「アクマ?」
「そう、悪魔です」
彼女はしばらくその意味がよく飲み込めなかった。
じっと、男の顔を見詰め上げる。
黒ソフト帽と黒眼鏡は判るのに、それ以上はなんだかもやもやして認識できない。
目が詳しく男の顔を見ることを拒否しているみたいだった。
視点が良く定まらないので、とりあえず、黒眼鏡に焦点を合わせることにした。
黒眼鏡に映り込む自分の姿が見える。
急に、声が聞こえて、ひょいと右手を掴まれ、カッターナイフの刃を左手から引き剥がされた。
そんなに強い力でやられたわけではない。美雪の身体が勝手に掴んできた手の言いなりに動いてしまったのだ。
手が離れて視界から消える。
美雪は、その手を追って椅子ごと背後を振り仰いだ。
そこに、黒ソフト帽、黒眼鏡、黒スーツ姿の男が立っていた。ワイシャツまで黒だ。
〈いや、白いからワイシャツであって、黒なら黒シャツでいいのかな〉
ネクタイだけが鮮やかな赤だった。
「だ、誰よ」
思っていたほど驚かないものなのねと思いながら美雪はその黒ずくめの男に向かって誰何した。
「あ、危ないですから、それしまってください。決して怪しい者ではないですから、はい」
黒ずくめの男は両手を前に上げて、彼女を抑えるように言った。
美雪は、それで自分が刃を出しっ放しのカッターナイフを握ったままなのに気付いた。
「あら、ごめんなさい」
急いで刃を引っ込めて、背後の机の上に放る。
?・・・なにか変だ。
「それで、あなた誰なの、どろぼうさん?」
改めて訊く。
「ああ、これはどーも、まだでしたね。わたくし、いわゆる、悪魔です」
「アクマ?」
「そう、悪魔です」
彼女はしばらくその意味がよく飲み込めなかった。
じっと、男の顔を見詰め上げる。
黒ソフト帽と黒眼鏡は判るのに、それ以上はなんだかもやもやして認識できない。
目が詳しく男の顔を見ることを拒否しているみたいだった。
視点が良く定まらないので、とりあえず、黒眼鏡に焦点を合わせることにした。
黒眼鏡に映り込む自分の姿が見える。