「どういう事?」

「いえ、あのときはわたくしからの介入であの部屋を選んだのですけども、

今回はあなたに場所を選ぶ権利があるのです。

つまり、ここはあなたが死に際し、最も望んだ場所なのです」

「なるほど。そう言われてみればそうね。

無くした記憶の自分をいつも知りたいと思っていたものねぇ」

「すいませんでした。

さすがにあのときのことを覚えていられては、

その後の運命の揺らぎがまた大きくなってしまいますので、

封をさせてもらったのです」

「ふぅん。

そう言えば、結局どう世界が変わったのよ。

別にこの10年間特別なことはなかったわよ」

「それでいいのです。

時流体のエントロピーの増加は抑えられましたから、

その間に時流体の修復を済ませて、

もう少し処理速度の早い器の誕生を促せました」

「また判んないこと言って。

これでも大学じゃよく勉強したんだけどな。

この世界の成り立ちについて……

それでもあなたの言ってることの意味が、半分ぐらいしか理解できないわ」

「まあ、早い話、もう1段階進化した人間の登場に成功したって事です。

これでかなり運命操作を頻繁に行わなくても魂を肉体に移すことができて、

時流体にかかる負荷も軽減できるのです」