「でも、ほら、よく言うじゃない。

良く事故が起こる場所には自縛霊がいるとか。

恨みを残して死ぬと化けて出てくるとか」

「事故が良く起こる場所というのは、その場所に構造的な欠陥があるからです。

霊的な存在のようなものが招いているわけでは決してありません。

恨みを残して死んでも、すべての魂は生命塊と一体となって自我が消失するわけですから、こちらに化けるなどということはありません」

「じゃあ、どうしてそういう話がされてるわけ?何もないんならそんな話も出てこないと思わない?」

「それはですね、生きている人達が覚えているからですよ、死んだ人のことを。

いわゆる幽霊というのは、人が自分の精神に映している幻です。

記憶や知識が無意識的な思い込みによって活性化して幻を見せるのです。

集団の目撃談というのは単なる精神の共感性に基づいているだけです。

人の精神というのはかなりの共感性があって、一人の思い込みは周囲の人に無意識レベルで波及します。

集団心理というのがあるでしょう。あれがそのいい例です」

 こうもなんでもすらすら答えられるとなんだか自分があまりにも馬鹿にされているようで腹立たしくなってくる。

 美雪はいい加減うんざりしてきたが、最後に一つ聞いてみることにした。

「じゃ、最後に、人はなぜ死ぬの?」

「それはですね」悪魔は勿体つけるように一呼吸置いて言った。

「運命だからです」