その証拠に、アイツは時々、声を押し殺して、一人で泣いている。

誰にも気付かれないように、静かに、泣いているんだ。

俺はいつも、どうしていいか分からなかった。

俺たちの住んでいるマンションの壁は、
結構薄くて、外でほとんど音がしない夜は、どんなにアイツが声を押し殺していても、聞こえてしまうんだ。

慰めようにも、俺には親がいつもいない寂しさが分からない。

同情なんてしても、アイツは絶対に喜ばない。

だから俺は、寂しさを完全に無くすことが出来ないなら、せめて、寂しさを忘れさせてあげたいと思った。

少なくとも、俺が近くにいる間は、笑っていて欲しいと思ったんだ。