「な!」


真剣な目で見つめられ私は顔が赤くなる。

なんなの⁉この人!

お父さんは口元を乙女みたいに両手で隠し、治典さんはハハハッと笑う。

そして笑いをこらえた後、言った。


「まあ、まだ婚約相手と決まった訳ではないから」

「?」

「さっき壮一さんが言った本当の婚約ではないという言葉を説明しなければならないね」


そういえばそんなことを父は言っていた。


「最初は婚約相手にするつもりだったのだけれど壮一さんが流石にそれは、と。だからまずは1年間様子を見て君に婚約をしても良いかどうか決めてもらおうと思っているんだ」


つまり
「別に婚約相手になる訳でも付き合う訳でもないんですね?」

「ああ。1年間、蛍を見定めて欲しいんだ」


それなら1年後に断れば…。


「ちなみに、1年間の間にその、好きな人と両思いになった場合」
自分で言っていて恥ずかしくなる。

「付き合ってもいいん、ですよね?」

「うん。いいよな?蛍」


コクンと頷く彼。

良かった…。


そんな安心している私に道条 蛍は
「奪えばいいだけですから」
とまたまた恥ずかしい発言をした。
「⁉」


…こんなたらし発言を毎回されたら心臓が持たない。なのに言っている本人は全然動じていなくて、この人は羞恥心という感情が欠如しているのではと思ってしまう。


「では時間もないのでこの辺で」

と社長が立ち上がり、その後に道条 蛍も続く。


「ああ、そうだ」

「どうされました?」


襖の前で立ち止まった社長は振り返り私に言った。


「明日から蛍が君の学校まで迎えに行って一緒に帰っていってもらうから。あと、その後に家にも夕方までいるから。壮一さんには許可もらっているし、そのつもりで」



「え、」

「じゃあお邪魔致しました」
「失礼いたします」


二人は挨拶すると足早に家を出ていく。

唖然とするしかない私。


い、言い逃げとか卑怯…。

そう感じながら心にある怒りは父にぶつけるしかなかった。