なんなんだろ。

私は部活が終わり、制服に着替えながら母が言っていた大事な話がなんなのか考えていた。

まったく身に覚えがないんだけど…。

悩みながら先輩に挨拶し、学校を出る私。

すると玄関に律夜がいた。


「あれ、律夜?」


律夜はこっちに気付くと「奇遇だな」と私の方へ近づいてきた。


「どうせ方向も同じだし、途中まで一緒に帰るか」

「え」


なんだか今日の律夜、おかしい。

いつもこんなに絡んでこないのに。

期待しちゃだめだと思っていても嬉しい気持ちはどうしても出てきてしまって。

頷きながら笑みがこぼれてしまう。

律夜は何故か少し驚いた後、私から目線をそらしながら「そういえば」と言う。


「さっき言い忘れていたけど、おめでとう。レギュラ
 ーに選ばれたんだってな」


知ってたんだ。

そう、私は昨日初めてレギュラーに選ばれたのだ。

私が所属している弓道部は人数が多くて不安だったから選ばれたときはとても嬉しかった。

あ、もしかしてあのときの「部活頑張れよ」はそういう意味だったのかな。

私は歩き始めながら「ありがとう」とお礼を口にする。


「律夜はどうだった?」

「今回もレギュラー入れたよ」


やっぱり、と私は思う。


「中学の頃からずっとサッカー頑張ってたもんね、おめでとう」

「ん、ありがとう」


律夜は頭の髪をくしゃくしゃさせながらそう言った。

小さい頃からの律夜のクセ。

照れくさかったりした時はよくするのだ。

もちろん律夜のこんな可愛らしいクセは誰にも教えていない。

私だけが知っている、私だけの秘密。

ずっとこの時間が続けばいいのに。

だけど徒歩ってことはもちろん学校から家は近いわけで。

すぐに家に着いてしまう。


「…また明日」

「…」


律夜は私の言葉に返事を返さず、黙っている。


「律夜?」


私がそう呼びかけると律夜は「あーー…」と声を出しながら髪をくしゃくしゃとかきまぜた。

あれって…。

クセに気付いたと同時に律夜が喋りだす。


「あのさ、明日も一緒に帰らね?」


明日も。

聞き間違えじゃないかと私は思わず「え、明日?」と聞く。


「…ああ。ていうか、華乃が嫌じゃなかったらその、
 毎日とかでも」

「毎日…」


漫画とかでよく見る幼馴染みはよく下校を一緒にしていて。

だけど中学の私は部に入っていなくて、一緒に帰ることなんて出来なかったから。

律夜と帰るなんてしたことなかったけど。

あの憧れていたことをこれから毎日出来るなんて。


「いいよ」
って言うしかないじゃない。


律夜は「え?いいの?」と目を丸くして聞き返す。


「うん」

「…そっか、じゃ、じゃあまた明日な」

「うん」


こんなに幸せな日は久しぶりだな。

この時の私はそう感じていた。