どれくらい経っただろう。

私が物語の世界へ入り込んでいると、

それを掻き消すような足音が。

どうせ私には関係ないや。

そう思って、私は

本の文字を追う。

それでも遠ざかることは

なくて、むしろだんだん近づいてくる

足音に嫌な予感がした。


————的中。


その足音は止まった。

...私の席の前で。

読みかけの本を反射的に閉じて

ゆっくり顔をあげると


(........................え??)


何故か、私に差し出されている

小さな手。

さらに顔をあげると、

微笑んで手を差し出す

男の子がいた。

吸い込まれそうな栗色の瞳には、

君を見る私が映っている。


「ねぇ、」


だって、思いもしなかったんだ。

この時の君の言葉で

私が救われるなんて。

「いつもさ、泣きそうな顔して

どうしたの?」

え.........................??

「な、んで...」

「昨日からずっと、

何かに怯えたような感じで、

泣きそうになるの我慢してるよね?

我慢してたら、いつか

壊れちゃうよ?」




























なんで..................


「な、ん、 で..................」

わかるの、という前に

泣き出してしまった。

目の前で知らない女の子が

泣いてても、蔑むことなく

背中をさすってくれた男の子。

私はその間、ちょっとだけ

男の子の温もりに

甘えることにした。

その間、何故か私は

君の温もりにすごく

ホッとしていた。


***


「もう、大丈夫だよ。」
「そっか」

3分ほどひたすら泣いて、

ようやく落ち着いた。

「そういえば、名前...」

「あー、言ってなかったね。

俺は 香山 或 (かざき はる)

お前と同じクラスだから。」

「香山君か。

私は..................」

「葉純 糸菜 だろ?」

「え、なんで知ってるの......??」

「んー..................」

キーンコーンカーンコーン

「じゃ」

そう言って手を振って去っていく

香山君の後ろ姿を見ながら、

(なんで知ってるの.......??)

そんな疑問が渦巻いていた。

***