「部活以外の知らない下級生とかもいるんでしょ?そういう時はどうしてるのよ?」
「え?だって、クラスと名前ちゃんと聞いてるもん」
「へぇー律儀ーっ。偉いね、雪乃」
「えーっ?だって、貰いっぱなしって何か悪いじゃない」

知らない人程、実際に貰う(いわ)れはないのだし。

「雪乃のそういう優しい所が余計人気を呼ぶんだろうね。その辺の下手な男より気が利くし、何よりカッコイイ!」
「えー?何なのそれ…」

二人笑いながら教室へと入って行くと、既に教室に戻っていた植草と目が合った。

「なに?また貰ったの?高山。相変わらず、すげぇな…」

席に座って貰った包みを手提げ袋にしまっていると、植草が横から覗いて来た。

「よく言うよ。自分だって散々朝から貰ってるくせに」

知ってるんだ。人気者の植草は、朝から同じクラスの子や同学年の子に沢山のチョコを貰ってた。

「えへへ、まあね」

無邪気な笑顔を浮かべる植草。

「でも、さ…」

不意に、そんな笑顔を収めて真顔になった。

所詮(しょせん)みんな義理チョコだからね。本命に貰えなきゃ意味ないって」

そんなことを言って遠い目をする。

「………」

(そんな切ない顔するぐらいなら、さっさと告白しちゃえばいいのに…)

そう思いつつも、上手く言葉が出て来なかった。




そして、放課後。

「…本当に数えるの?」
「うん。頼むよ」

今日は放課後の部活がない為、帰ろうとしたら植草に呼び止められた。
勿論、例の『願掛け』の件について、だ。お互いに貰ったチョコの数を数えて、その結果、彼は彼なりに覚悟を決めるのだろう。

(上手い具合にサッと帰っちゃえば関わらずに済むと思ったのに…)

出遅れたことを後悔しても今更遅いけど。
そんな重大な決意を、正直こんな自分のチョコの数で決めて欲しくはなかった。