「ただいまー。」
日向は、玄関のドアを開ける。
「おかえりなさい」
リビングに行くと、仕事が休みだったお母さんが弟の太陽を抱いていた。
「どうしたの?太陽、熱がある?」
母に抱かれている太陽のおでこには、冷えピタが張られている。
子供用のアンパンマン。なんだか、笑ってしまうほど可愛い。
「そうなのよ。熱が38度あるの」
「38度?!たかっ」
日向は太陽の額を触った。冷えピタの上から、熱いのが伝わってくる。
「ところで、日向。お願いがあるの。お母さん、今から仕事に行かなくちゃいけなくなったの。」
「はぁ?」
日向は、間のぬけた返事をした。
「急にね、夜勤する人が出来なくなって、お母さんが来るまで、他の人に残ってもらってるの。」
「ちょっと待ってよ!太陽は!?」
「38度だから大丈夫よ。あ、でも。水分はきちんとあげなさいよ。脱水になったら大変だからね。」
38度で大丈夫って何がよ。
日向に太陽を抱かせ、お母さんは仕事の身支度を始めた。
「じゃあ、行ってくるから。なるべく早く帰ってくるからお願いね!」
そう言って、お母さんは逃げるようにして家を出る。「おかあしゃん」
日向の腕の中で太陽は涙を浮かべて、お母さんの背中を見送った。


泣きたいのはこっちの方だよ。

日向は溜め息をついた。