冷たい君の不器用な仮面







「……私の家族には……私の存在なんか…いらないの……」








私は小さな声で、ぽつぽつと話し出した。








マスターはそれを、何も言わずに静かに耳を傾けている。








「私のお母さんは、昔から体を売る仕事をしていて……ある日、トラブルでお客さんとの間に子供ができてしまったの……」










その瞬間、マスターはハッとしたように私を見た。











「……そう。それが私。そのお客さんはすぐに逃げてしまって、私の本当の父は今もどこの誰なのかすら、分からない。私は、生まれない方が良かった存在だったんだ」










また、私の目から涙が一筋伝った。







「お母さんはその後、結婚して仕事をやめた。その人との間に子供もできた。お母さんは、私を含まない本当の幸せな家族を手に入れたんだ。」










「……うん」










マスターの瞳が、苦しげに揺れた。







「お母さんにとっても、結婚相手にとっても、私は邪魔な存在だった。お母さんは夜中に何度も私に罵声を浴びせた。体を売る仕事をしていたから情緒不安定なところもあって、暴力を振るわれることもあった。ついには18歳の誕生日に、家から出て行けと言われたの」










「……っ」









「私は『何でもするから追い出さないで』って何度も懇願した。すると、お母さんが言ったの。『なら自分で稼いでこい』って。そして無理やりあの店に紹介されて、その日のうちに仕事をさせられた」








体が途端にガクガクと震え出し、私は小さく縮こまる。









そんな私の背中を、マスターはひたすら優しくさすってくれた。









「……そんな辛い事、話してくれてありがとう。苦しかったね。涼那ちゃん、すごく頑張ったよ」







マスターの言葉に、また涙腺が刺激される。







私はそれをこらえようと、グッと目元を手で押さえた。









「……その仕事はいつまでやるつもりなの?」








「………高校を卒業するまで続けろって言われてる」











「……卒業まで……か」











マスターは私の言葉に、何か考え込むような動作をした後、私に向き直った。









「…提案があるんだ。涼那ちゃん」









私はゆっくりと顔を上げた。