「……涼那ちゃん。」
私はゆっくりと顔を上げる。
私がきっと、ひどく怯えた顔をしていたのだろう。
マスターはふと悲しそうな笑みを浮かべた。
「……嫌なこと、聞いてごめんね。……もう聞かなーー」
「……っ待って!」
私はとっさに声をだした。
マスターは驚いたように、そんな私を私を見つめている。
……ここで逃げちゃダメだ。
分かってる。分かってるんだ。
マスターはもう、私のことを『他人』だなんて思ってない。
きっと、レイやユウと同じように、大切な人のように思ってくれている。
たまにバーに顔を出して、マスターと他愛のない会話をして。
マスターの面白い昔話を聞いたりして。
閉店ぎりぎりの夜中に来たって、何も言わずに店に入れてくれた。
……もう、マスターには言うべきなんだ。
今まで、ずっと疑問に思っていたんだろう。
私が夜中に街に行っていて、
真夜中にバーに来ても親からの連絡もなくて。
……そりゃあ、誰が見たっておかしい
気にもなる。
……でもその疑問を。
マスターは私のことを思ってずっと今まで、聞かないでいてくれたんだ。

