ーーコトンっ
ホカホカと湯気を立てたココアが、私の目の前に出される。
私はそれを手に取ることもなく、ぼうっと眺めていた。
……あれから私たちは、警察たちに保護され、またバーへと戻ってきた。
ユウはもうすでに家に帰っていて、今は私とマスターの2人きりだ。
「……涼那ちゃん、家帰らなくていいの?」
「……。」
マスターの問いかけに答えない私を見て、マスターはそれ以上何も言わず、私の隣の席に腰かけた。
……マスターがこっち側のカウンターにいるなんて、変気分。
いつも目の前にいたマスターが横にいるのが、不思議な感覚だった。
私はまだうまく思考が働かない頭で、ぼんやりと横に座っているマスターを見つめた。
マスターは、そんな私の頭を優しく撫で、にっこりと微笑む。
「……大変だったね、涼那ちゃん。疲れたでしょ?ほら、冷めないうちに飲みなよ。」
マスターは私に前にあるココアに手を伸ばし、私の手を重ねる。
「……ね?」
私の顔をいつもと変わらない笑顔で覗き込んでくるマスター。
「……っ」
そんなマスターに、私の目から、また涙がドッとこぼれ落ちてくる。
私はそんな目をゴシゴシとこすり、必死に涙を抑え込んだ。
もうすっかり腫れて赤くなった目は、こするとヒリヒリして痛い。
私は目を手で覆い隠した。
「……」
ぽんぽん
マスターはそんな私を、何も言わずにただただ頭を撫で続ける。
そんなマスターの優しさに、余計に熱いものが込み上げてきて。
「……っうわぁぁん」
私はマスターに飛びついて、子供のように声を上げて泣いた。