「あっ、ちょっと君!!危なー……」
私は引き留めようとする警官の腕を振りほどき、逃走する黒い車を全力で追いかけた。
「……レイっ!!レイ……っ!」
レイがさらわれちゃう!
レイが遠くに連れていかれちゃう!
……体はあんなにボロボロなのに…!
頭が混乱していた。
この状況に、うまく対応ができなくて、取り乱している自分がいる。
分かってる、分かってるけど……
足を止めることは、出来なかった。
ただひたすら私は車の後を追い続ける。
「涼那ちゃん!無茶だ!!」
ユウの叫ぶ声が耳に入った。
でもそんな声は、私の頭をすり抜けていく。
……レイがっ……レイがっ……!
ボロボロと目から涙がこぼれ落ちる。
必死で追いかけるも、あっという間に小さくなっていく黒い車。
「……やだぁ……!待って…待ってよ!連れてくなら、わたしがーーきゃっ!」
私がもう何十メートルも離れてしまった車に向かってなく叫んだ瞬間、石につまづき、体がぐらりと傾く。
……だめだ、転ぶ……ーー!
そう思った瞬間、
……ふわりと誰かに体を抱きとめられた。
私は涙でぐちゃぐちゃになった顔のまま、ゆっくりと顔を上げる。
「…涼那ちゃん!もう無理だ…!一度、諦めよう」
そう叫んだユウは、グッと唇を噛み、苦しそうな顔で私を見つめていて。
……私はハッと我に返った。
……そうだ。この状況に混乱しているのは、私だけじゃない。
ユウも、マスターも、警官も、
ーーー……レイも…
私だけじゃ、ないんだ。
それに、私なんかよりも、ユウの方が絶対にレイのことが心配なはずだ。
……ーーーなのに私は……っ
取り乱していた心がすうっと静かに落ち着いていき、ユウの手から離れる。
「……っごめん…ユウ……」
「……ううん。涼那ちゃんのせいじゃないよ」
「……っ」
その言葉に、私は言葉を詰まらせた。
……ほら、ユウもだ。
何があろうとも
どんなことが起きようとも
……決して、私を責めようとしない……

