「……えっ」
私は驚きのあまり、ポカンと口を開ける。
私の横にいたユウだって、大きく目を見開いている。
……だって……
だって………………
あのレイが……!!
_ありがとうって言ったんだもんーーー!!!
そりゃあこうもなるよ!!
私が死にかけていたレイを助けた時だって、
私が大好物のプリンを分けてあげた時だって、
感謝する素振りすら見せなかったのに!!!
そんなレイが……『ありがとう』って言った?!?!
もうびっくりしすぎて……__
………いや、ちょっと待てよ。
私のただの聞き間違いだったという可能性もある。
ましてやただ単に、ありが10匹いたって伝えてくれただけかもしれない。
「ねえレイ。今、なんて言った?」
私はレイにもう一度尋ねた。
でもレイは目をそらしたまま、
「…もう言わねぇ」
と呟くだけだった。
「えっ、何でよ!聞こえなかったんだって!!もっかい、もっかいだけでいいからあーー」
「絶対嫌だ」
「えええーー、1回でいいの!ね、ラスイチだから!」
「嫌なもんは嫌だ」
「な・ん・で!!!」
たちまちうるさくなった病室に、ユウとマスターはやれやれと肩をすくめる。
ふと、窓から吹き込む風が頬をかすめた。
……ああ、こんな幸せな時間が続けばいいのに。
私はレイと言い合いをしながらも、心底そう思った。
…………でも、夜は毎日必ずやってくる。
それだけは、何をどうしても変わることのない現実なんだ。

